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No.71 ミストラル
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age:20
sex:不明
height:153cm
weight:???kg
Trend:出来るだけ避ける
Favorite:シスターのくれた青い薔薇
Hate:手の届かない「希望」
Comment
全てが終わったら、私は貴方達のもとへ帰ります。待っててくれれば、嬉しいです
【Battle_Log】
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「届かなくても、それでも私は奇跡に手を伸ばす。
 たとえ絶望の景色しかなくても、結果、私が枯れ果てても」


ミストラル・ガルニエ(記憶喪失後につけられた名前) 年齢20歳

見た目は幼いが、実年齢は成人済み。
言葉数は少なく一見冷ややかだが、年齢よりどこか幼い部分もあり、
信じられる人には信頼と静かな笑顔を見せる。

過去に大きな交通事故があり、家族は失い自らも大けがと記憶を失っている。
※この事故が原因で体の成長が止まっている。

その後は教会が運営している孤児院に引き取られて、今の名前をもらう。
教会ではそれなりの生活を送っていたが、
大きくなって引き取られた場所がとある大きなマフィア組織であった。

どんどん教会で教えられたことから外れた道を生き抜く中、そこで自分の過去の一端を知る。
元々は教会がマフィア組織が運営していたこと。
そこで育った子供はいずれは自分達の手駒として育てられること。
ただおかしいのは―――どんな殺人でも平気で笑う彼らが、
彼らの巻き沿い事故で死にかけたというミストラルを、
わざわざ彼らの息のかかった病院まで連れていき大手術させてまで生き延びさせたということだ。

ただそのことは今は関係ない。突如飛ばされたこの世界で、生き抜いて、元の世界に帰ること。
闇社会に染まった自分が生きてもいいのだという証――希望。
そして何よりも願うことは……かすかに記憶に残った、"何か"を知りたい。ただそれだけ。
慣れないコミュニケーションも積極的にとってでも、生きようとするだろう。

もし仲良くなった場合、こう聞くかもしれない。
「教えてください。私は、……誰?」


―――――――――――――――――――――


教会にいる子には、家族の子とは違う。

何故なら神様のいる家に住まう子だから。

よい子にしていれば、クリスマスイヴに貴方に奇跡が舞い降りるでしょう…



老齢のシスターがいるも笑顔で語ってくれた物語。

他の若いシスターも、

一緒に住んでいた孤児の子は何度も聞いてうんざりしていたけれど、

私ははなぜか素直に信じていたのです。

「大きな事件に巻き込まれたのにも関わらず、大きな怪我をしても、
無事に生き残ることが出来たから」と言われていたけれど、

家族が迎えにやってくる、と信じていていた。


そして数年後のクリスマスイヴ。私もそこそこ大人になって、
簡単に奇跡を信じなくなった時。

あの老齢のシスターが、笑顔であるのに、どこか青ざめた表情でやってきたのだ。

「ミストラル。お前は、奇跡に、選ばれたの」
「奇跡?シスターの、言っていた?」
「……ええ。だけど、お前は、お前は……」

そういってシスターは笑顔を急にしわくちゃな泣き顔になり、私を優しく抱きしめた。

「シスター?どうして、泣いているの?」
「……お前には、いつか奇跡がやってくる。本当の、貴方が喜ぶような」
「私は奇跡に選ばれたのに、喜べないの?」
「………うう……うう…」
「シスター?」
「この子に、どうか本当の奇跡が舞い降りますように」

そうして、私のポケットの中には、青い薔薇の造花が入れられた。
シスターのいつも心を込めて作る、綺麗な、綺麗な造花だった。

―――――――――――――――――――――――――――


シスターのいうことは、本当に当たっていた。

威圧感のある、大きな建物に招かれたあと、「クリスマスイヴの奇跡」の子と呼ばれた。

頭に、"モリアーティの花冠"を被される、私の姿。
花冠につけられた薔薇の色は、青紫色だった。


「君は我らが"ファミリー"に選ばれた。いや、『花冠』に選ばれたんだ。
次の子が来るまで、せいぜい、持っていてくれや」

私は彼らの言葉の意味が分からないまま、違う"ファミリー"に迎えられたのだった。


――――――――――――――――――――――――――――


決行しなくてはならない。

もうすでに私の尽くせる手は尽くした。

「モリアーティの花冠」は渡してはならない。

"ファミリー"の手が回っている、警察にも、誰にも。

……それに、【彼】の願い――「安らかに眠らせてほしい」と告げた、その願いをかなえるため。


後は、私が――――

「あら?」

私専用とされた机の上に置かれていたのは、"フタハナ島"への招待状だった。


――――――――――――――――――――――――


『モリアーティの花冠』

「シャーロック・ホームズ」シリーズの登場人物、
ホームズのライバルとされる『モリアーティ教授』にあやかったか、
それを超えるように作られた、高性能な人工知能 【Moriarty】 を裏に隠した花冠。
花冠の部分は軽いようだが強度の高い金属だが、何でできているかはトップシークレット。
噂では、【Moriarty】を守る、人間でいう肉体そのものという話らしいが、確かなことは分からない。

証言者・M「【彼】は長い年月の間に、確かに人の心を覚えていた。周りにいた本物の人間よりも、誰よりも」

<装着効果>

・所持者の知識の大幅な向上、そして【Moriarty】を通じた知識の伝達
・管理者から所持者への盲目な忠誠
・所持者の感情抑制
・強制的に破壊されると、管理者権限による所持者の命の喪失
・常に体へ負担がかかるため、一定以上の衰えを確認すると所持者の装着時期の記憶消去

<装着優先順位者>

※前提としては、柔軟な発想を求められるため機械ではなく人間の体であること。

1.組織の元にある教会にて、徹底的に管理された食事・教育を施された者
2.未成年者かつ一定数値以上の優秀なIQを所持
3.性格が従順である。

<優先される順位>

1.候補者の記憶保持数が極めて少ない者
2.候補者の家族関係が希薄――教会で教育された孤児であることがふさわしい。
3.なお、何かしらの病院で"強化処置"させた子どもが優先される。


==また、記憶の抹消された所持者のその後は、どこにも残されていない==


――――――――――――――――――――――――

▼お世話にったPL様方

86→『太陽』のような人。変わってしまった自分の異能を『希望の風』と言ってくれた……ありがとう。

112→ミストラルの名前に、温かい意味を与えてくれた方。貴方の咲かせる花は、とても可愛らしくも綺麗だろう。

144→貴方に会えたことこそ、私にとっての奇跡。貴方となら、もっと広くて、違う世界が見られると信じている。

214→突如変わった異能に狂わされてしまった方。最後にお手伝いできなくて、ごめんなさい。私の"願い"を返してくれて、ありがとう。

226→危なっかしいけれど、これまで会ってきた中でまともな感性を持っている、優しい人。もう一度会えたら、貴方の手で占いをしてくれますか?

265→この島で、初めて話しかけてくれた方。気さくな方で、最後にバディを組んでくださった方。日本でもゆっくりお話ししましょうね!

304→無力だった私の異能に、自信を持ってほしいと励ましてくれた方。言葉と行動で戦い続ける貴方が私の頭を撫でてくれた手は、本当に温かかった。

――――――――――――――――――――――――
▼PLとして※注意事項

R-18/Gのロールプレイは苦手なため、若干ぼやかした発言となります。申し訳ありません。
それ以外は大体OKです。

▼PLとしての発言・感想

今回、初めて「*フタハナ*」システムそのものに参戦させていただきました。
慣れないことだらけで、周囲チャットもろくに発言できず、交流はとても少ないものとなりましたが
デスゲームとされたここで得られた者は、フタハナ参加者皆さまからのたくさんの優しさでした。
たどたどしかったり、リアル事情でメッセージの返信が遅れたりとご迷惑をたくさんおかけしましたが、
「イノハナ」で参戦して、本当に良かったです。

いろいろプロフィール設定を詰め込みすぎて、「???」となることが多かったと思います。
そこだけは申し訳ありません。
次の参戦は未定ですが、次ははもっと周囲チャットになじんでいこうと思います。

周囲チャット、Chチャット、メッセージで初心者の私に話しかけていただいたり、交流してくださった皆様、
本当にありがとうございました!


『貴方たちの前途が、これからも幸せなものとなりますように』


No.71 ミストラルのPLより

――――――――――――――――――――――――




↓その後が気になる方へ








【Epilogue】





お世話になった相手へ挨拶した後に船に乗り、その後記憶が曖昧となりーーー



どのような絡繰りか、私は何故か部屋にいた。



ーーボスがパーティにいない時間を彼ーー【Moriarty】に教えてもらい、

最後まで止められつつも毒をあおろうとした時、

招待状を受け取った。あれから一週間は経っただろうか。

あれは夢か現かと、体を動かそうとするも動かない。

わかるのは、長い間ついていた花冠がなくて違和感を感じる

ただ、左手の指に感じる、違和感とーー確信。

これからの決意の証でつけた、自分が最初から持っていた青い薔薇の指輪。
そして霧が濃くなり、フタハナ島で出会った人達の姿が見えなくなるまで握りしめていた、
神代さんから預かった、教会で持っていた形とは少々(?)違う精神教のロザリオ。

あの島の一週間は嘘ではなかったのだ。



何とか、体を伏せたまま、ゆっくりゆっくりと、体を動かしてとある機械の所へやってくる。

花冠が入るより少し大きめなくらいの入れ物と、
中には謎の液体、入れ物の下には蓋つきの大きめな物入れーーを模した機械ががつなげられていた。



これは、花冠の記憶で情報を更新し不必要なものをより分け、最適化するための機械。
そして、次の日には花冠を装着した私の記憶もある程度リセットされるのだ。
途中からは使わなくなってしまったけれど。



今こそ花冠は壊れてしまったが、
この機械からまた新しい花冠を作るための手段が見つかってしまうかもしれないからと、
最後に【彼】から頼まれた、この機械の中枢部であるコードを抜くことにした。

手の中にある大事なものはフタハナ島でもらった鞄の中へ仕舞い込む。
そして機械の蓋を開けて、中に落ちていたこの機械の専用手袋をつけてから、作業を開始する。

花冠やこの機械の製法もすでに廃棄処分され、
この機械で再度コードを繋げたとしてもーー動くことはない。



まだ帰ってからの衝撃からか、己についていた花冠の母体が抵抗のためか、頭が割れるように痛い
。呼吸も体を動かすたびに息が荒くなる。体そのものがミシミシと引き裂こうと痛みを訴える。
まるで自分よりも強い何かが私を支配せんと覆いかぶさるようだ。

それでも、コードを抜くのをやめない。
力を振り絞って一本一本、引きちぎる。
――だって、これが最後の約束だから。



「……見つけた」



ようやく見つけた、中枢部で他のものよりキラキラと輝く、青紫色のコードだ。
これを引き抜けば、もう、二度とモリアーティの花冠を作られることはない。



この線に触れた時、過去に"会話"した【彼】のことを思い出す。

ーー体はないのに、もうーー疲れてしまった。
このように口では綺麗事だが中身が暴力的なそれだけではなく、
単なる知的好奇心を呼び起こし、満たす話をしたい。

ーー私にはしてくださいました、か。そりゃあ、話し相手が貴方しかいないからだ。
話し相手となるのはともかく、味方になると言ったのは、貴方が初めてだった。
ここの生活、己の命を放棄してまでな。

ーーもし新しい貴方が出来たら、どうするのか、と。
万が一コピーが出来て、自分が壊れたとしても複製されたら、と。
その為の手段は既に教えて実行したはずだ。
よしんば出来たとしても、実に下らない質問だ。



"君には、この私以上の私が、出来ると思っているのかね?"



 ボスやその客の前ではの前では腰は低く穏やかにしゃべろうと、
培ってきた自信と知識、それを解きほぐす知恵は誰よりも高い。
この会話を聞いたら、あの島で出会った彼らはどう反応するだろうか。
ぱっと見で形すら見えない、人工知能とどう喋る?と、怪訝な顔をされ、
どの道、いい印象は与えられないだろう。
まあ、あの島についてからはほんの少ししか言葉は届かず、
一度だけある方の位置情報を調べるため協力してもらったぐらいか。

 けれども、私は彼を、肯定する。過去のの『クリスマスイヴの奇跡』に選ばれた子が変わるたび、
少しずつ自分の意識なるものが目覚め、
いつの間にかこうして頭の中へ語りかけるくらいの"自分"が出来上がったこと。
そして、一人きりになった時を見計らい、会話を楽しんだこと。
ついには、延々と己以外の何かに使われることに飽き飽きし、
私にここの事情の全てを話した上でボスの代替わりを見計らい、
――叛逆という名の自らの破壊を頼んだこと。
その日から、私は彼の協力者となり、彼の本体『モリアーティの花冠』と、
それを今後も悪用されないように、組織から末端の研究所までの活動停止、
ボスを含めた上位の幹部達の逮捕、事実を知らない彼らの身柄の安全、
最後に自室にある『モリアーティの花冠』の最後の秘密の抹消――全てをやり終えた。

『モリアーティの花冠』そのものは所有者がボスであるもあり呪わしいものと感じていたが、
一人の時、気まぐれに話しかけては私に知性と礼儀を与えてくれた【彼】だけは嫌いではなかった。



「ええ、ええ。貴方以上の、貴方はいません。【モリアーティ教授】」



……どうか天国で、安らかに眠ってください。



そう言って、私は、青紫色のコードを強く、引き抜く。
コードが抜けた先からは、謎の液体が機械の中へ流れ込みはじめる。
そこへつけていた作業用の手袋を投げ捨てると、液体と反応し、ジワジワと。
引き抜いたコードを通じて機械の中が溶けていく。

この状態になれば、もうどの機械も複製されることはない。
ここでの仕事は、全て終わったのだ。


体の限界を感じながら、息も絶え絶えにフタハナ島の鞄を持ってから体を無理やり引きずって、
何とか最初にいた机の近くまで移動することはできた。
しばらく休んだら、スマートフォンで何とか、連絡を取らなくては……。


……しばらくすると、遠くで名前を呼ばれる声がきこえてきた。
協力者の一人となってくれた、警察官だ。
あれから7日は経ったのに、探してくれる人はいたことが、少しほっとした。




「……ないのか、ミストラル・ガルニエ。返事を、して――」





"ミストラル"



その名前の意味は、冬から、暖かい春に流れる、風―――

君の力は、加護だ。『希望の風』だ。


私の名前に、そう声をかけてくれた、優しい女性と、男性がいた。


………あなたの言っていた、そのさきがけとなる風と、ここでも私はなれたのでしょうか。


声が聞こえ、扉の前に人の気配がしたとき、安心感から意識が深い眠りへ落ちていった。



◆ ◆ ◆


ミストラルは警察の手で保護されたのち、
本来であれば己の罪状そのものに問われるだろうと思っていた。

しかし、長い間、悪の巣窟であった組織を壊滅させたという手柄を褒められ、
残りの警察側からの「取引」の内容をこなすことが出来れば、解放されるという話へ向かっていた。

取引の内容はいたって単純で、
組織とのつながりのある人物をすべて洗い流し、確実な証拠を警察側に握らせること。
私は彼らの勢いに押され、二つ返事で受けてしまったが……
これがほぼ何カ月のも軟禁生活へつながるとは思わなかった。


「ここの人物は、幹部○○とのつながりがあります。
 情報は……どうか、警察の機密情報とは関係ないパソコンはございますか?
 (カタカタ)ありました、こちらにございます」

「あからさまに怪しい顔をされていますが、
 彼と組織とつながりは一切ありません。情報は全てまとめています」

「申請されている研究所ですが、こちらの代表者が今代のボスと密談されているのを私が目撃しています。
 一度顔を合わせれば、きっと分かることでしょう。怖くはありません、向かいます」

「人手が足りない?では、お手伝いいたします。ただ組織の話とは違う気がしますが……大丈夫ですか?
 いえ、誰かの手伝いになるならば幸いです」


当所は組織に関する情報提供だけのはずであったが、
いつの間にか警察のサーバー対策のお手伝いをすることになっていた。
『モリアーティの花冠』で培われたらしい情報処理能力……
コンピューター、もといハッカー能力は私の技術として残ったらしい。
本来ならば組織内でも残っていたちょっとした思い出の記憶も、
例の機械で消されてしまっていたのが、情報処理能力を残すこととなってしまった。
「君のその技術ならば、どこにいっても通じる」と太鼓判を押されて、
もし解放されても今後の仕事には困らないが、少々複雑だ。
……組織の中にも私の境遇に優しかった人もいたかもしれないのに。

このように流れで警察で仕事をしながら、あてがわれた小さな部屋を往復する日々。
生活にそのものに支障はないが、場所が場所なため、連絡先を伝えた方への連絡は
この数カ月で1度も送れていない。
送ったのは完全に警察に保護される手前で1度だけ、自力で送ることが出来た。

「私は無事にフランスまで戻ることが出来ました。今は信頼できる警察の元に保護される手筈となってます。
 安心してください。貴方が無事に帰還されていることを祈ってます」

走り書きであったが、無事をいち早く知らせるには十分である……と信じて。
それからは、保護される立場ゆえ外部からの連絡は一切絶たれている。

これが、罪の償いにつながる。
そう信じて今はここにいるものの、……時折自由に歩くことのできたフタハナ島での記憶が懐かしい。

【彼】に聞かずに、初めてテントをたて、初めて焼いた肉切れを焦がしてしまったこと。
精神教のパンフレットがいつの間にか届いていて、気づいたら連絡を取り、
たまたま食料がなくなってしまったらしく、送る手段のために初めてバディと組んだこと。
だけどその方と別れた時に、隣に誰もいない寂しさを、初めて感じたこと。
草原で一緒に迷った私より少し青年とお話したこと
異能というものを配られたものの、特定の相手がいないと使用することが出来ず落ち込んでしまったこと。
チャンネルサーバーというのを教えてもらい、
『強化の刻印』をかけることで、相手の力になれるとやっと自分の存在意義を覚えたこと。
相手の方に深く感謝され、心がとても
その方から頼まれた相手のもとに行くため、思い切った手段を取って会いに行って挨拶したり。それにもかからわらず、デスゲームが終わるまで、仲良くしてくれたこと。
……暴走してしまった相手に初めて殺され、異能が『支配の刻印』へと変わって、
己が信じてやってきたことを絶望していたこと。
だけど、『モリアーティの花冠』のある"ミストラル"ではなく、
フタハナ島での"ミストラル"そのものを信じてくれた方々の優しさと愛を自分自身へ深く刻み込まれた、こと。
後は、花冠が割れて、初めて……いや、これは言うまい。
自分でもどうなのかと言われたら、きっとまごついて分からないのだから。
まだ組織やその関係者から罵倒してくる屈強な男性と対峙している方がまだ気がしっかり持てる。

嬉しかった思い出、悲しかった思い出はまだある。いっぱいあるのだ。
そのたびに流れ落ちる涙が止まらないから、一生懸命思い出さないようにして、
1日1日を過ごしていた。
あまりに寂しい日は、寝る前に十字架を切る際、あの精神教のロザリオを見るのだが、
どうしても、こう、独特の形のロザリオにくすっとなってしまうのだ。
――あの薔薇は、まだ散っていないだろうか。

そんなこんなで4カ月以上は過ぎただろうか。
今日も仕事を手伝うため、サーバー室まで出向くが……

「馬鹿者!最近たるんでいると思ったら、通常業務をあの子にもやらせていたとは!彼女との『取引』は済んでいるはずだぞ!」
「も、申し訳ありません……」

何やら数カ月の出向先から戻ってきた上司から、大きな雷がサーバールームの方々に落ちているみたいだ。
私も一度やってしまった記憶があるが、
連鎖的に思い出してしまいそうなるので首を数回横に振ってから部屋に入る。

「お、おはようございます。今日のお仕事を受け取りに来たのですが」
「君は……いやいや、いい!むしろ今日で終わりにしていいんだ」
「え?」
「君の罪、いや――『取引』内容は、すでに終わっている。むしろ申請せずに、
 何故ずっとこいつらの仕事をしていたんだ」
「え、ああ、その……彼らが事件に追われている間、とても忙しく、手伝おうとおもったのです。
 私は部外者ですが、ここにいる以上、自分の罪の償いをする必要がありました」

教会を出て、ずっと組織にいる間は彼らが行っているような仕事はしていなかった。
ただ単純に、『モリアーティの花冠』が教える内容を、私が口から伝えるだけのこと。
(ただ、花冠が話した犯罪の内容は、口で言ったにもかかわず全く残っていない。
 【彼】が最期にその記憶をすべて持っていったのだろうか?)
日頃、突如入ってくる事件の対策に追われる彼らの方が、よほど仕事しているため
自分の手で出来る限りの(もちろん警察内部に深く関わる仕事には情報漏洩にならないよう断った)ことをしたかった。
ただ、それだけだ。

「そうか……それだけで、これらの内容か。わかった。
 ミストラル・ガルニエ。ここの情報は漏らさないことの誓約書は書いてもらうが、君は自由だ。
 ただ半月は待ってほしい」
「え……自由、なのですか」
「そうだ。君との『取引』以上に、ここで働いてくれたことと君の力に敬意を表したい。そのための半月だ。
 その間に、やりたいことがあれば……」

「あ、あります!!」
 ほとんど勢いで相手の言葉を遮るようにして言ってしまった。
「手紙を、書かせてください。そして、罪が償われて、自由であるならば……
 日本へ、帰国させてください」


◆ ◆ ◆


そして、フタハナ島での日々から、実に半年ほど過ぎた先。


日本の空港ロビーへ降り立つ、一人の少女――に見えても仕方のない女性――が立っていた。

頭には、かつて乗っていた花冠ではなく、青色のボーラーハット。
そして分かりやすいようにとは思ったものの、少々気恥ずかしいが、
帽子よりも深い青色の薔薇の飾りをつけている。
左手の黒手袋の下には、自分の意志でつけた、青い薔薇の花の指輪も。

服も種類はあの日とは違くとも、長くて黒いコートをきっちり留め、
レースで出来た胸飾り――ジャボとお気に入りの赤のブローチを付けている。

- ― ―

彼女は警察から自由と言い渡された後も、
日本へ帰国するための手続きや、
亡くなった両親が日本人であることの証明するための手続き諸々を済ませる間は
残された仕事、もとい残りの組織に関わる人物の洗い流しに従事することとなった。
ただ、変わったのは仕事するためのコンピューターやサーバーエンジニア資格取得のための勉強、
そして行動がある程度自由になったことだ。

そして、最後に給料とここの警察で働いたという証明書と、その実績を詳しく書かれた書類まで渡された。
ここまでとんとん拍子に話が進みすぎていて良いのだろうか、と先日の雷を落としていた上司に聞くと

「君は日本からこちらにきて事件に巻き込まれているんだ。
 本来ならば一刻も早く見つけなければならなかった。こちらの手落ちという部分が大きい」

そういって、申し訳なかった、と一言つげた後に、彼はまだ続ける。

「ビザも、在留資格……本当は日本人である君には必要ないのだが、すでに準備済みだ。
 12月に向かうのだったな。準備は大丈夫か?」

私の事情を知れば知るほど、警察としてやりきれなかったことが多く申し訳なく感じたらしい。

「はい、どうしても最初に連絡したい方への連絡は済ませています。お忙しい方なので、
 その方がいらっしゃらなくも、訪ねたいところもあります。大丈夫です」

さすがにその人の所に行くには、独身寮というこの身一つで行くには申し訳なさが立つ。
万が一は精神教本部に向かおうと考えていた。いただいた小冊子にも裏側に住所があったし、問題はないだろう。

「分かった。君の能力でここから手放すのは惜しいが……
どうか、日本で幸せを掴んできてくれ」
「……はい!」

6カ月、ほとんど缶詰め状態(変わらなかったらしい)で仕事をしてきたものの、
元々こちら側が提案してきた司法取引に、乗ってきたもらったのがここの警察だったのだ。

「本当にお世話になりました。ありがとうございます」


― ― ―


自由になったその日、フタハナ島でお世話になり、
精神教へ入信するための連絡手段として住所を手渡している神代さんへ手紙を書く手を取った。
彼は、私が手紙を送ったのちに音通不振になったのを心配になったのか、
きっちり、1か月置きに手紙を送ってもらっていた。
フタハナ島では精神教の手厳しい意見に関することには強い意見で反論していたらしいが、
彼個人との話をすると、自分を追いつめ過ぎるほど真面目で、誠実な人柄だ。
ここまで心を砕いてもらい申し訳ないと思いつつ、手紙を読み進めていたもの、5か月目でにある一文が書かれていた。

――「所轄先での事件が立て込んでいる。24日に来れるか分からない。……すまない」

警察の仕事は、大きな事件があると何日も缶詰となって仕事をする。
それは私も(日本の警察のことまでは分からないが)分かってはいるので、
「分かりました、事件がなるべく収束することを祈ってます。体調にはくれぐれも気を付けてください」
の一言を添えてから、
××空港への到着時間、到着ロビー、そして1日目に留まる宿泊先の連絡先も伝えた。

「入国審査などもあるのでこちらも正しい時間ではありませんが、ホテルのチェックインに間に合う、この時間までお待ちしてます。」

無理にとは言わない。ただどうしても日本に来る時は、
最初に連絡を取った彼に真っ先に顔を見せたいと思ったのだ。
祈るような思いで、手紙に封をして、速達で日本への手紙を出したのを覚えている。



そして、到着して、入国手続きも荷物受け取りも済ませて、到着ロビーで待っている。

「(考えれば、スマートフォンも新しく買えたのだからそちらの連絡先を送ればよかったのかしら?
 ただ一応警察に入るときに連絡手段はとられていたし、
 缶詰状態だったのと携帯番号も手紙に送った後で強制的に変更されていたし、
 ほとんど使ってないから、分からないことだらけだ……)」

仕事ではあまりやらないのにこういう初手でつむとは、我ながら情けない。

「(………もう少しで、チェックインの時間になるから、移動しなくては。明日に精神教本部に向かって、
  そして泊まる日数を伸ばしおく手続きもしなくては)」

そうして、考え事をしながら移動をし始めたところだった。
相手はよほど急いでいたのか前を見ていなかったらしい、勢いよくぶつかってしまった。
こちらは体格の差に負けて勢いよく倒れて、しりもちをついてしまった。

「……っ、すまない、大丈夫、か……?」

迷いなく差し出された手。今の声を聞いて、私は迷いなく手を取った。
一週間しか会っていないのに、よく覚えている。
鋭い目つきに、頬に目立つ傷。後ろにくくられた長い髪。

「ミストラル……か?」

神代翡翠さん、その人だ。

「……お久しぶりです、神代さん。お仕事が、その、無事に収束したみたいでよかったです」

「ああ。実は先ほど収束した。元々今日は休みを取っていたが、到着までに時間がかかった。
 待たせてすまない」

そして、こちら一度見て、こう言うだろう。

「……また、髪を切ったのか?」
「残念、帽子を付けただけです。花冠は外れましたが、こちらのほうがわかりやすいと思ったのですが」

……『クリスマスイヴの奇跡の子』なんて、都合がよすぎないかな。
どちらにしても、出会えただけでも、こうして再会できただけでも、奇跡であることには間違いない。
届かない希望が0じゃないだけ、分かっただけでも。

とてつもない、奇跡。


「約束通り、日本にやってきました。こちらに来たら精神教信者になるという約束と、もう一つの約束を果たしに」

信者になるという、クリスマスイヴとロマンチックには程遠い理由ではないけれど。

「――本当に来てくださって、ありがとうございます!」

ミストラルは今だけはこうして再会できたことがただ、嬉しかったのだった。



――――――――――――――――――――――――



これにて、終劇!!

最後まで、ミストラルの物語を読んでいただき、本当にありがとうございました。