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No.300 不眠不休
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age:20
sex:男
height:170cm
weight:54kg
Trend:積極的
Favorite:笑顔
Hate:怒声
Comment
男の手から得物が滑り落ちて、水面を揺らす。
【Battle_Log】
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レジャーシートの上では、お父さんだった。



インターホンを鳴らすとき、いつも息を飲んでしまう。何も滲んでいない掌を、もう片方の手に擦り付けて応答を待った。

「お兄ちゃん、まだ?」

服の裾を掴まれると、日差しの暑さと相待って鬱陶しさに顔を歪めてしまう。その瞬間応答が来た。焦るな、顔を話して、いつもの言葉を戻すんだ。動揺したままでも、何千回と口にした言葉だけは穏やかに発された。

「突然失礼致します、パンフレットをお配りしているのですが」
「ああ、うちはそういうのは、ちょっと」
「では、ポストに」
「私もね、仏教だから。だからいらないんです。すみません、ええ、結構ですから。失礼しますね、すみませんね」
「はい、すみません。失礼致しました」

言い切る前に、受話器を置く音がして、今日のノルマが終わった。




「チラシがまだあるよ」

俺の鞄からパンフレットを一冊くすねて、義理の妹が声をかけてくる。まだ、チラシとパンフレットの差が分からないらしい。

「由梨、返して」
「減らしてあげたの」
「ダメだろ、ほら」

些細なやりとりにも疲労が滲んでしまって、罪悪感が湧き出す。暑さのせいだ。集会所近くの脇道は、車道側にいつも日が差していて、遠くに見える植木が揺らいで見えた。
母と、義父と、義兄と、義弟と、義妹と自分の暮らす家は、いつも緩慢に時が流れていて、心地の悪さがあった。唯一、あれこれ要求してくる義妹と過ごす時間だけは妙に忙しく、篭った空気を入れ替えてくれる様に感じる。そういったわけで、例え疲れていても邪険な態度は取りたくなかった。

「帰ったら遊ぶから!」

すぐに飽きてしまったのか、突き返された冊子と共に決定事項が飛び出して、変わり身の早さに驚かされる。そういえば、砂だらけのレジャーシートをまだ拭いていない。玄関横の木下で吹きさらしだ。母には妙に懐いているが、ごっこ遊びの相手はいつも俺だった。

「会合が終わったらな」
「絵もする」
「宿題あったのか。ならそっち先」
「遊ぶの先がいい、やだ」
「宿題ほっとくと、夏休み減っちゃうんだぞ?」

もうこれ以上、絞り出しても父親の言葉のレパートリーを増やせそうにない問題に頭を抱えたが、見えていた角を曲がる頃には、母親をやらされるよりもいいか、と思い直す。世帯を持つ女は本来どんなことを話すのだろうか。素性を明かさず、適当に連れ回して切れる関係を好む女としか長続きしなかった。つまり、誰とも長続きしなかったということだ。ただ、仕方のないことだった。ここでは、20時から3時間、祈らなくてはいけなかった。それでも、歩みは止まらない。ふらふらと車道に飛び出す義妹を引き寄せて、得意の笑顔で、受付に挨拶した。

差し出された蛍光色のカップ、紙皿、摘まれた草木、芝居がかった言葉、緩い土の感触を、みんな覚えている。





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由梨が風邪をひいた。最終登校の日は友達と写真を撮るのだと意気込んでいたが、倒れてしまってはどうしようもなかった。仕事に行く父を見送ると、母は直ぐにお祈りに向かうため、こちらに仕事を投げてくる。分かってはいたが、午後から出かける予定があったのに、と嘘の予定で悪態をつかずにはいられなかった。
一階の教室は三部屋しかないようだった。廊下に飾られた絵から由梨の名前を探して、開かれた戸をくぐる。促されるままに名乗って荷物を引き取ろうとすると、顔をしかめた教師が、失礼ですがと再度名前を聞いてくる。初対面の相手にはこういった態度を取られることが殆どで、当然返す言葉も決まっていた。

「すみません。本人の口から、お名前を伺ったことがなかったもので」

悪かったね、俺だけ、伺ったら二度と忘れないような名前で。疑いが晴れ、廊下に飾られていた絵と、道具箱とを手渡され、上履きの場所を教わる。軽く頭を下げて教室を出ると、乾いた風が入ってきて、嫌に涼しかった。風が画用紙の端を揺らして、丸める手が止まる。不意に壁の絵を眺めると、返し忘れたのか、取りに来なかったのか、他にも数枚の絵が飾られたままそこにあった。せり出した柱には、『家族にありがとう』という文字が踊っていて、気がつくと手元の紙をゆっくりと開いていた。



中央で、義妹が笑っている。
そこに描かれていたのは、5人だった。










男の手から得物が滑り落ちて、水面を揺らす。
毒を抱えたまま歩き回り、殺されて罪を洗い流すことも出来ず、男は今ゆっくりと、その目を閉じた。何も唱えられない。出てくるのは教義じみた、教義だったのかもしれない、己を律する言葉ばかりで、自分の言葉はみんな、忘れてしまっていた。水面を割って深く沈むのは、最早この世の誰でもなかった。










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不眠不休 男 20歳
過激な教義を持つカルト宗教の家に生まれ、変な名前を貰った。
殺すことで1人でも多く救いたいと思ってここに来たと言い張る。
笑顔と口先だけはよく鍛えられたが、人を殺すのも生きるのも得意でなかった。


願い:「全員不幸にする」