笹山 隆二は勤勉なサラリーマンだった。
仕事一筋で生き、気づけば婚期も逃し、独身のまま会社に奉仕しつづけた。
疲れが溜まったある日、彼はとある知り合いから特別なクスリを進められた。
いちど使ってしまえば、何度もそれに頼ってしまった。
そして年月が経ち──彼は警察に捕まった。
仕事をがんばるためにシャブに手を出した男は、会社にも見放されて放逐された。
無職になった彼は、しばらく失意に支配されたまま過ごしていたが──
──ある時、不思議な手紙に“招待”されるのであった。
【異能について】
もはや必要もないだろう。
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2021/09/19 01:57:30
森の中で浅い眠りに落ちていると、ふいに奇妙な感覚に襲われて目を覚ました。
夜中、誰もいないはずのそこで、“声”が聞こえている。それは耳から情報を得たのか、それとも超常的な現象で脳内が声を認識したのか、判別はつかなかった。
だが確かなことがある。
どうやら自分に、『特別な力』とやらがプレゼントされるらしい。
この状況では、それは信じるに値する情報であった。
そして──ふたたび眠気に襲われ、笹山はふたたび意識を手放すのであった。
2021/09/19 17:23:51
森で食料を確保した。
少なくとも、これで飢え死にすることはないだろう。
これから、どうしようか──
2021/09/19 21:53:25
誰かが争う物音を耳にした。
こちらは身を隠していたので、誰にも気づかれなかったようだ。ほかの参加者に危険人物が混じっていることは間違いない。今後はさらに用心するべきだろう。
2021/09/20 06:35:03
小動物の肉や、採取したキノコなどで食事を取った。
しかし、満腹になったとはとても言いがたい。もっと食料を。食べるものが欲しい。
先日の、誰かを襲った人物についても気になる。そのような危険人物からは、できるだけ遠ざかって生存率を上げなければならない。
生き延びなければ。
……そう強く思って、不思議な気持ちになった。
自分はついこの前までは、無気力で無為な生活を送っていたはずだ。時には食事さえ忘れ、虚空を眺めていたことさえあった。あるいは、自殺さえ一時は考えたほどだった。
だというのに、今は──腹を満たし、生き延びることを願っている。
人間らしい欲望が強まったのは、極限状態に追い込まれたからか、それとも……“異能”の効果か。
だとするならば、悪くはなかった。
キリスト教では七つの大罪なるものがあるが、それは一概に忌むべきものではないだろう。適度な欲望は、生きる原動力になるのだから。
──大罪因子。
その異能の存在を──笹山は好意的に受け入れることにした。
2021/09/20 10:35:49
花畑で、女性に話しかけられた。
相手に危害を加える意志がなかったのは幸いだったろう。言葉を交わすうちに、なんとか友好関係を結ぶことができた。
知り合ったばかりだが、相手の性格からすると悪くはない同行者だろう。
人間は、群れなければ生き残れない。
それは自分も同様だった。生きるために、徒党を組む。自分の生存欲求を満たすために。
生きたいという人間的な欲望が、いつにも増して強まっていた。
人を殺して喰らうことを厭い、自死を選ぶらしいあの青年とは、まるで対極的だ。
これが異能の影響なのかどうかは、わからない。
だが、考えても仕方のないことだ。
俺は生き延びる。
どんな手段を使ってでも──
2021/09/20 15:00:00
知り合いが死んだ。
知り合い、といっても、初日にライターを少し貸しただけの相手だ。しかし、それだけでも彼が自分に恩義を感じ、大事な知り合いだと思っていたことは事実だろう。彼はそういう性格だ。
自分は何もできず、彼が死を迎えるのを見ているしかできなかった。
知人の死を目前にして、自分の意志が強まるのを感じた。
2021/09/21 20:04:33
自分の意識が混濁し、誰かを襲ったようだ。
周辺の多くの人物が同じようなことを経験している。自分だけの問題ではないことが窺えた。
巻き込んだバディには申し訳ないが、悔いても仕方のないことだった。
拠点に駆け戻り、傷を癒しながら、考えつづける。
周りの混迷を見渡しながら、自分はただ静かに……これからの生き残る手段を考えていた。
2021/09/22 15:22:54
廃墟に物資を探しにいった。今後の戦闘が起きた時に、薬の存在が重要になってくるだろうからだ。
中央のほうも、さすがに人が多いらしい。人影をいくつか見かけたが、関わらず通り過ぎていった。
いちど戦闘が起きても、すぐに回復できる程度の物資は確保したが──
これで本当に今後を生き延びられるかは、保証がなかった。
2021/09/24 17:00:00
この非日常に、慣れてしまったのだろうか。
殺人者が同じ島にいるというのに、とくに不安も恐怖もない。
死者を偲びに北端の拠点へ向かいながら、1週間の期限もそろそろ迫っていることを考える。
既定の日数を終えたら、参加者たちはどうなるのだろうか。
無事に帰って、いつもの日常に戻るのだろうか。
あの社会での日常。この島での非日常を経験したあとでは、モノの見え方もずいぶん変わってくることだろう。
自分は──
2021/09/25 19:36:08
七色のブーケを形に。
しかし、どうやら使うまでもなかったらしい。
それを入用とする人間を、明日は探すとしよう。
彼や、彼なら、おそらくそうするだろうから──
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・関わった人物たち
【No.270 バッタ】
ライターを貸して、火起こしの手助けをした。どうやら、彼はほかの参加者と一緒にいるらしい。
同じ場所に来ないかと誘われたが、まだこの“会場”についてよく理解していない段階では、下手に他人と関わりを深めるべきでないと判断してやんわりと拒否をした。
自分の選択は浅はかだったろうか。わからない。
しかし、連絡先はいちおう交換してある。もし他人の手が必要になったら──彼に救援を求めるというのも、手段の一つとして考えて良いだろう。
> 2021/09/19 17:33:50
青年とメッセージのやり取りを少しした。
話しぶりからすると、他者に危害を与える可能性のある異能をもたらされたのだろうか。
自分も似たようなものだが、ひとによっては単独行動を強制されるような状況を強いられるようだ。他人とのかかわり方は、今後はしっかり考えたほうがいいだろう。
> 2021/09/21 00:59:52
メッセージを受け取った。
どうやら彼は、死を選ぶらしい。
対面して話してはいないので、本心でどう考えているのかはわからなかったが……しかし葛藤があったことは間違いないだろう。
今後、彼のみならず多くの人間が苦渋の決断を迫られることだろう。
俺は……もし、そうなったら……?
> 2021/09/21 15:00:00
人生の中で、死にゆく者を看る経験はゼロではないが──
こうも唐突に人が死ぬのを直視すると、動揺が生まれるのは確かだった。
…………。
拠点内で交わした会話は、忘れることはないだろう──
> 2021/09/25 10:13:25
帰ったら、どこかで食事でも奢ろう。
それと──
──きみの言ったとおり、タバコも一本。
【No.77 『車掌』】
> 2021/09/21 18:09:34
礼儀正しさと、正義感が窺える若者だ。
北端の拠点で彼と会えたことは幸運だったろう。
しばらくは、彼の拠点に世話になるつもりだが──
> 2021/09/25 15:41:06
誰よりも礼儀を心得、
誰よりも慈愛を秘めた、
きみの優しさと力強さに満ちた手だった。
斃れていたのが俺だったとしても、あるいはほかの者だったとしても。
きみはきっと、誰でも平等に、それが助けるべき相手ならば手を差し伸べるのだろう。
区別することなく、差別することなく、等しく慈悲をひとに向けるからこそ、きみは尊く人徳にあふれた聖人だ。
きみと比べたら、俺はなんと矮小な存在か。
そう思い知ることができて、幸いだった。
ありがとう、命の恩人よ。
【No.314 浜夏子】
> 2021/09/20 12:29:13
若い女性だ。
若い、といっても自分が基準だが。年齢は尋ねなかったが、まあ女性に聞くものではないだろう。
同行を提案したのは、死への不安と生への欲望が高まったからかもしれない。
徒党を組めば、それだけ生存率は上がる。
もし、誰かに襲われた時は、たとえば彼女を囮にすれば──
……いや、妙な考えはよそう。双方ともに生き延びるに越したことはない。
> 2021/09/21 18:03:24
北の拠点を出て、別の場所──“車掌”と名乗った青年の拠点へと、彼女とともに移動した。
ここでなら、安全に過ごせるだろう──
──そう思っていたのは、間違いだったようだ。
> 2021/09/21 20:15:42
……血まみれになりながら口づけをするのは、さすがに不格好だったことだろう。
> 2021/09/23 10:51:43
願いが叶った、と彼女は言っていた。
それがどんな内容なのかは、わからない。しかし彼女にとっては良かったことなのだろう。
俺の願いは──とにかく、生きて日本に戻ることだろう。
そう、生きて戻れば、やり直しなどいくらでもできるのだから──
> 2021/09/23 16:36:59
香水の香りも悪くない──
そう思ったが、やはり。
それが似合うのは、自分より彼女のほうだろう──
> 2021/09/25 XX:XX:XX
きみに幸あれ。
【No.197 灰色蜥蜴】
> 2021/09/19 18:44:05
不思議な人物だ。森の中で声をかけられた。
まだ余裕がある状況だったので、平和的に話ができたが……。
> 2021/09/23 23:17:26
唐突なメッセージだったが、内容に対する驚きも大きかった。
彼が伝えてきた試みは、はたして成功するのだろうか。この島のシステムを深く理解していない自分にはわからない。
だが、確実に理解できることは一つある。
イヌキリ・バッタという青年が、それほどの人徳を持っていたということだろう──
【No.239 ワダ】
> 2021/09/23 14.51.51
言葉からはうそ偽りが感じられない女性だった。
同じ異能同士で集い、生き残るために、最善を尽くす。
その理念は素晴らしいが──
……チャンネルを覗くことだけはしておこう。