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No.208 ディー
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age:11
sex:male
height:147cm
weight:わかんね
Trend:出来るだけ避ける
Favorite:メシ
Hate:宿題
Comment
「焼き魚と白いメシくいてー!」
【Battle_Log】
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潮見 大(しおみ だい)

海辺の寂れた村に住むがきんちょ。
貧乏だが、それをそうと知らず穏やかな生活を送っている。
年齢並みに頭は回るが勉強はあまり好きではない。

ディーは名前の読みから来た愛称。



───

早朝、ケンを連れて砂浜を走る。

ケンはうちの犬で、茶色くて、でかい。犬だからケン…… とうちゃんのネーミングセンスは正直ビミョーだと思う。

ここに人はめったに来ない。行ってこいと、ケンを放して走らせる。ケンはかしこいから、どっかに行ったりしねーし。オレと同じかそれ以上にこの海のことを知っているんだ。

大きくかまえてロッドを振る。気持ちのいい音を立ててラインが繰り出された。のぼり始めた陽が浅く広く海原を照らし、おとなしめの風がゆるやかに波を踊らせる。海中の小さな生き物が光を求めて浮き上がるこの静かな時間、オレのエモノたちもそれを求めて、光の方へとやってくる。釣りをするには絶好のタイミングだ。


「あれ? ケンもう戻ってきたのか。ん? なんだそれ?」


ケンがみてみて!すごいでしょ!と俺に持ってきたのは白い紙の入ったビンだ。水が入らないようにピッタリとしまった封をナイフでこじ開ける。四つ折りにされていた紙は学校のテストくらいの大きさだ。


「しょうたいじょう? ナンダコレ?」



♦︎



気がつけばこの島に来ていた。

初めは釣り道具が手元にないことにめちゃくちゃあせった。だって、とてもお金がかかってるし、とうちゃんのもあるから失くしたらめちゃくちゃ怒られる。でもよく考えたら、ケンだけ家に帰ったら多分誰かが気づいて砂浜にきて、釣り道具も全部持って帰ってくれるだろうなって思った。

それでちょっと安心して。オレが帰ってないことで騒ぎになるって想像はとりあえずどこかに吹っ飛んでた。吹っ飛んでたっていうか、上書きされてたんだ。ここは無人島で、オレと同じような人がいっぱいいて。なんかすごくワクワクしたから。

ちょっとくらい遊んでから帰ってもいいよね。



♦︎



なんか、身体から糸が出るようになった。

まわりの人もいろんな不思議な力がついたみたい。糸はすげー丈夫で、太くしたり細くしたりできる。かっこよかったりはないなぁ。釣りをするには便利かも。いつも釣りしてたし、じいちゃんに魚網の修理のやり方を教えてもらってたから、こんな力になったのかな。


いつのまにか持っていた通信機はみんながわいわいしている様子を聞いたり送ったりできる。オオギリのねーちゃんはテレビの人みたいにいつもなんかやっていて、オレにはオオギリが何かよくわからなかった。家族がテレビのオワライ番組見てるとチャンネルを変えたいのと同じでよくわからなかったから、きっとオワライの人なのかも。じいちゃんはああいうのが好きだから、オレも大人になったらわかるのかなぁって思った。他にも、色んなひとがいた。



おかしい、って思ったのはフシ?のおじいさんが殺されたとき。
こわかった。


おじいさんは誰かを攻撃して。そしたらおじいさんの異能のことを知ってる人が出てきて。どうやったら殺せるか説明しだした。なんか、その異能の人は普通にしたら死なないけど、特別な異能で攻撃したら一発で死んでしまうって。知ってるって思った。そういうの、ゲームで良くあるから。トッコーってやつだろ。

女の子を攻撃したから、危険だから攻撃する。それはそうかもって思った。もう誰が正しいのかわからないけど、多分ここはそういう場所なんだ。できるだけ、オレはそうしたくないけど。

こわかったのはそのあと。
トッコーもちの人が怖かったわけじゃない。
おじいさんはトッコーで攻撃されて、一瞬で粉々になって消えたらしい。
死んだって。
端末で名前のリストを見る。その意味がわかった。


この島では、何度かは倒れても元に戻ることができるって、みんなの会話でわかっていた。多分、何回かは死んだことにならないのかも。でも、そのトッコーでやられたらそんなの関係ないんだ。本当に死ぬ。


通信機から笑いが響いてる。
じいさんが粉々になったぜ!って。
安心してる人もいる。

でも、オレはこわかった。


オレは、広域通信のスイッチを切った。



♦︎



ネットで読んだマンガを思い出す。無人島にクラスみんなで転移して、戦ったりするやつだ。高度なジョウホウセンがなんか難しくてわからないことも多かったけど、ドキドキして面白かった。

オレたちはちょうど、そのマンガの登場人物みたいだった。あの主人公を思い出す。嘘の情報を教えようとする人や仲間になろうと言ってアイテムを盗もうとする人。主人公だって人を助けることもあれば、生きるためにだましたり殺すこともあった。もちろん、本当に助けてくれる人も何人かいたけど、どうやってそんなのわかるんだろう。今のオレには絶対にムリだ。


ジャージのポケットに入っていたメモ帳。
オレがいつも気温や天気、海のようす、釣果を書いているヤツだ。
この島にきて、新しいページに初めに書かれた『オレのかんぺきな計画』は既に横線で塗りつぶされている。

あの主人公がやってたみたいに、大事なことを書いた。


・人をうたがう
・できるだけかくれる


あとは?
水、えんぶん、休めるときに休む。


いくつかを書き加えて、オレは暗い森の中で丸くなって眠りに落ちた。



♦︎



何日たったのかよくわからなくなってくる。

森の中には食べ物がたくさんある。ここでじっと隠れていれば危険なことは何もなかった。白いごはんと、大根おろしを添えた焼き魚が食べたい。そう思って仕方ないってくらいで。

時々、広域通信のスイッチを入れて大事そうなことだけ聞いてメモする。きゅうけつき、じんろー。相変わらずオオギリのおねーさんはオレには面白くなかったけど。でも、こんなに目立ってる人でも無事に生きてるんだなって思った。もしかしてオワライの人なのにすごく強いのかもしれない。


夜は広域通信も少しだけ楽しい。
歌や楽器のできるひとたちが音楽を流してくれる。

楽しいって思えること。

その気持ちを忘れたら、感じられなくなったら、きっとオレは色々耐えられなくなってしまう。だから、オレはその時だけは端末に耳を傾けて、うたをきくんだ。

リズムに身体を合わせ、狼の遠吠えの響く夜の森の中で。
オレは星空の下、うたをうたった。



♦︎



その夜は、歌のあとに宣伝してる人がいた。
多分、オワライの人じゃないと思う。
ちょっと面白かったけど。

なんか、身体がキカイになる異能で、部品がないと死んじゃうって。

部品なら二つだけ持ってた。これをあの人に渡せば、あの人が助かる。イイコトをしたかったワケじゃない。この島に来てずっと、誰にもかかわらず、たよらず、オレはただ隠れて息を潜めていたから。なんでもよかった。誰でもよかった。なにか人にかかわりたかった。


でも、いざ、その人に通信を送ろうとしたら手がふるえた。
迷いが心をぐるぐるとかき混ぜた。

つけっぱなしだった広域通信から聞こえる。部品が沢山あるって。あっ、て思った。人と、かかわるチャンスがなくなったって。


悔しかった。
こんなこともできなかったオレが。
どうして、どうしてこんなことになっちまったんだろう。

わからない。
誰かと話したい。
このまま、あと数日じっとしていれば助かるとしても。
このままでは、きっとオレの何かが死んでしまう。


──たすけて。だれか。


その声をかける相手はいない。









人と話したい。そう思ったのに足は人気のない方へと向かった。


辿り着いた北の森に身を潜める。
少し遠くから人の声がする。

よく聞こえる声は女の人。鍋を作っているらしい。
今にも消えてしまいそうな声は男の人だ。
もう一人、ちょっと変わった話し方をする人。ガイジンさんなのかな。
もう少し遠くから、落ち着いた感じの若い男の人の声もする。
その人とよく話してる若い女の人。

吸血鬼って言ってた。吸うとか吸わないとか。たぶん、その女の人が吸血鬼。そんなおっかない異能をもらってるのに、とても普通にともだちと話してる。楽しそうだった。仲が良さそうだった。嫌なことに怒って、楽しいことに楽しいと言って。


まだ、わからない。
まだ、わからないけど。
ここは安全な気がした。

まだ、見つからないように。
けれど、心をときほぐすように。
木々の向こうから聞こえる声に、オレは耳をかたむける。



♦︎



夜が明けて、また一日が始まる。
聞こえる声は変わっていなかった。
みんな知らない人だけど、みんな昨日と同じく生きている。
オレはそれだけで元気をもらえた気がした。


少しずつ、きもちがふつうになる。
今なら、くだらないことで笑えるかもしれない。
自然とつぶやきがもれる。


「このままダラダラ過ごしてたら七日目に帰れるんじゃダメなのかなぁ……」


きっとここの人たちは何か知っていると思ったから。
オトナはこわかったけど、ここには安心できる何かがあると思ったから。






───

321 アズハタのにいちゃん。よく、ムズカシーことを言う。オトナってこういう感じなのかも。でも、なんか時々消えちゃいそうな感じになるんだよな。異能のせいらしいけど。だから、ちゃんとご飯食べてケンコーにしてほしいなって思う。異能の糸であんだストラップをあげた。にいちゃんと話してるとさ、この島でのことは忘れない、強くなるって、オレの心の中でじわっと気持ちがわいてくるんだ。オレは忘れないよ。いつか、オレも強くなるから。

235 女王様。すごいカッコしてておっぱいがでかい。最初はこわい人かと思ったけど、かあちゃんみたいな感じもする。たくさんの人にたよりにされてた。この島はすごくフシギなことがおきるから、きっとこの時間をオレたちにくれたんだと思う。

181 黒髪のにいちゃん。ミスミさん。あとで名前覚えた。きれいな男の人。言葉はちょっと冷めた感じがする。だけど、なんだろう。オトナのウソやキレイゴトでごまかされた気がしなかったんだ。ううん。いろんなオトナがいろんなことを言うけど、誰が正しいとか、ウソとかホントじゃなくて。どうするかは、強くなれるかはミスミさんのいうとおり、オレ次第だから。

305 タケノコの人。なまえ、えっーと。ミハイルさん。オレが泣いてしまった時、泣かない人は怖いって言ってた。ずっと隠れてたって、死にたくないからって言ってるの聞いて、なんかオレはほっとしたんだ。戦うばかりがやり方じゃないって、逃げるのは当たり前なんだって。

203 ピンクの、えっと、アキハねぇちゃん。えっと、たぶんミスミさんと仲がいい。居酒屋みたいな拠点を作っていて、オレみたいなとつぜん来たヤツでも入れてくれた。吸血鬼の異能みたい。でもこわくない。みんなが落ち着ける場所を作っていて、楽しいことを楽しそうにする。ピンクのねぇちゃんや女王様がいたから、ここに人がいたのかな。


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ログ公開OKです。